しんじんのおしごと！
王国首都（と言っても日本の地方都市並）近郊にある基地に到着してから1週間が経ち、僕たちは環境にも慣れて仕事に励んでいた。
「第2便到着。手すきは手伝え！」
「あれ、数が合わない。2個たりないぞ」
「げ、これ空箱だぞ」
「お、重い。誰か平台車くれ～」
「リフトでパレットごと降ろしたいな」
「リフトは修理中だから駄目」
「誰か書類を事務室に持ってけ」
「馬鹿野郎！その前に過不足分の確認だ！」
本業である荷物の積み下ろしと分類確認。
「スパナよこしてくれ」
「はい。…ん？ここのボルトがゆるんでますけど大丈夫ですか？」
「何だと！…よく気がついたな」
「いえいえ。単に目に入っただけです」
「修理時間延長がたった今決定」
「しょーがないですね。整備不良で死人が出るよりはマシですね」
「当たり前だ」
「前いた所で整備不良で車を出していたところが…」
「民間もおそろしーな」
車両整備の手伝い。
「C棟でトイレットペーパーが足りないそうです」
「よーし。お前、倉庫から補充して来い」
「あーちょっと待って！あとBの廊下で蛍光灯が切れたからそれも」
「あ、それならさっき終わらせましたけど？」
「それとは別件」
「またですかい」
「ジュースが届いたので補充の手伝いに行ってきます」
総務な仕事。
そのほか畑仕事（ローテーション制）などに駆り出されたり、本当に忙しい
で、僕は今、業務の1つである書類配達の為にママチャリで王都を走っていたりする。
王都と言う位だから立派なんだろーなと考えていたが、甘かった。
F世界でならかなりの大都市なのだが、日本と比較するとそこらへんにある地方都市ぐらいの人口しかなかったりする。元は統一帝国の植民市でそこから発展していったそうだ。
で、統一帝国期からの市街地である「旧市街」を抜けて後から発展した「新市街」に入ったが…新市街の方が駄目だ。ごちゃごちゃしている。道の石畳はぼろい。そのほか…
さすがに道に汚物などは落ちていないが（後で聞いたら自衛隊の医官が衛生の観点から清掃を強力に要請したらしい）が、やっぱりなんだか汚い。
さらには今回の戦争で発生した難民がへたりこんでいたりと戦争の影響も見受けられたりする。
そんな中を自転車で走っているとけっこう物珍しげに見られる。
青い作業着＋ヘルメット＋カバンの異世界人がよくわからない機械に乗って走っているのだから目を引かないほうがおかしいけど。
僕にとっては逆に全てが珍しいけど、仕事中だからよそ見なんかしていられない。
ラミネート加工と通しナンバーが入った市街地地図（自衛隊謹製で譲渡・コピー禁止）を見ながら目的地である城に向かって走っている。
やっと城に着いた。日本にいるファンタジーヲタなら「これぞファンタジーな城！」と断言しそうな城だ。水堀に囲まれ、高い壁に囲まれ、隅には塔。王道中の王道な城だ。1番最初にここに来た時は思わず見とれてしまったが、3回も来るともう見飽きてしまった。さっさと中に入ろう。
「日本国自衛隊、王国派遣隊伝令、草壁守だ！開門願う！」
届け先は城内の一室。自衛隊と外務省職員がつめる連絡室。
応対したのは下っ端（と思われる職員）の人。
「お疲れ様です。こちらが書類になりますので確認と受け取りのハンコをお願いします」
「ご苦労様。帰るついでに頼まれてくれないか？駐屯地にはこっちで連絡しておくから」
さて、なんだろう？
「いいですが、何でしょうか？」
「この書類をある貴族の所に届けて欲しい」
「時間指定はありますか？」
「特に無し。今日中に届けてくれればいいよ」
ならば問題はないだろう。
「承りました。それではお預かりします」
一仕事終わったらまた一仕事。大変だなぁと考えながら正門に向かっていると騒ぎに出くわした。
騒ぎと言っても少人数で、1人の騎士と5人の騎士が睨み合っている。なお、どっちもガキ。触らぬ神になんとやら…と無視を決め込みたかったけれども、1人の騎士がクラウスちゃんだったりするから無視するわけにもいかないので割り込んだ。
「クラウスちゃんどうした？」
「クサカベか」
僕がクラウスちゃんに話しかけていると、もう片方の騎士が割り込んできた。
「ん誰だ？雑兵は去れ。我らに見苦しい姿を見せるな」
ナンだコイツは。ものすごく失礼な奴。見たところいいとこのお坊ちゃんだな。それにしても…こいつが紅い服で、後が青・緑・黄・ピンクと戦隊カラーで草。紅い服のとりまきみたいだな。
「8代前からの由緒正しき家系を誇る高貴な我の前に出てきたなら名を名乗れ」
失礼な奴。だが一応返しておかないと。
「日本国自衛隊王国派遣隊所属の草壁守です」
「フン。異世界人か。まったく、王も奴らに頼らずとも我らだけで帝國を撃退できると言うのに…」
コイツは馬鹿だ。しかも絵に描いたような馬鹿貴族だ。こんな絵に描いたような、投稿小説サイトに山ほどあるナーロッパ系小説によくある典型的馬鹿貴族にお目にかかるとは！！
そんなお約束な奴がいるとは…現実は小説より奇なりだ。あーそう言えばよく行っていた掲示板方式小説投稿の所だとこうあったな。『リアルがひどくでフィクションちゃんが息してない』。まぁ色々言われっぱなしなのもなぁ…
「人が名乗ったら名乗り返すことが騎士の礼儀だと愚考しますが、如何」
「無礼な！」
どっちが無礼なのやら。
睨んできたが睨み返す。そうしたら向こうが目をそらした。勝った。
とそこに今度はクラウスちゃんが割り込んだ。
「クサカベ…こちらの騎士はマルス伯爵家の三男であるアス様です」
伯爵家の三男…某小説の八男よりは地位が一応上。そりゃまずいな。ものすごく嫌だけど一応こっちから謝っておくか。
「それは失礼な物言いをしてしまい申し訳ありませんでした」
「フン。ようやくわかったか。これだから出自も分からぬ者が治める国の者は」
こいつはムカつく。鼻っ柱を折っておくのも悪くないかも。ただし無礼が無いように。英国人や京都人級のイヤミまでは行かないのが難点だが。
「失礼ながらアス様は日本国についてはどれぐらいご存知で？」
「下賤の国など知らんでも良いのだ！」
馬鹿決定。
こいつに「教育」してやるか。しかも血筋がどうこう、ならばそっちで攻めてやろう。
「日本国の象徴である天皇陛下。ああ、こちらの感覚では皇帝にあたりますな」
「フン。蛮族の王か」
「現在の天皇陛下は125代目にあたります。万世一系で」
騎士アスの顔色が変わった。が、それでも虚勢を張る。
「フ、フン！何代であっても蛮族は蛮族だ。おおかた首がすぐすげ変わって数だけが多いのであろう。そんなものと我らを比べるな。年数なら我が家は200年を誇るぞ！」
そう来たならこう返そう。
「伝説を含めるのなら天皇家は2600年以上。省いても1500年は堅いですな」
「…く。ただ長いだけでは高貴とは言えぬぞ。我が領地の臣民の数は王国で1番だぞ！」
おーおー悔しそうな顔になってやがる。
よし、止めを刺してやろう。
「日本国の総人口は約1億2000万です」
おーおー真っ赤になって反論できんでやんの。
「フン！帰るぞ！」
そう言うととりまきを連れて逃げ出した。捨て台詞が無いだけ立派か。しかしまぁ伯爵クラスの子供でアレかよ。日本の情報が伝わってないのか？まずくないか？
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