輸送戦記 第11話 補給基地
日章旗と一緒になぜか星条旗まで一緒に翻っている基地（「王国」首都郊外）に到着後、基地司令の目の前で着任の報告をさせられた後に基地の案内があった。
この基地はけっこう広い。
輸送の要であるから倉庫やら何やらが広いのは当たり前。さらに航空機用の格納庫に、整備・補修系が異常に充実しているわ、通信用のでっかいアンテナはあるわ、さらに自給自足の畑と鳥小屋まであった。
「機動警察パトレイバーの特車2課かよ」
「第2次世界大戦・南方戦線における基地？」
「どこの通商機動部隊よ」
そんな感想を抱いたり、何でこんな事になっているか不思議がっている人がいたが、よく考えると問題が無い。
倉庫がでっかいのは、さっき書いたように輸送の要であるから。
各種車両等の整備・補修系が充実しすぎているのは、常識的に言って現地で修理した方が早いし、遠隔地であるので何があるのか分からないし、追加増援も考えているから。
航空機の格納庫があるのは、輸送ラインに空路も入っているからだし、整備・補修系が充実している所に格納庫を置くのは常識だから。
通信用アンテナは、情報途絶による混乱なんてまっぴら御免という常識的な判断から、日本本土との通信回線を維持しているからだろう。
ただ、その他に上級司令部やら各省庁の出張所やらおまけに米軍もいる。もっとも米軍はいろいろあるらしくて自衛隊指揮下にあるらしい。
その後の各種説明（どこそこがねぐらだとか、ここには入るなとかそーゆーもの）を受けた後、現場担当者から『なんともご無体な』宣言があった。
「到着直後で悪いが、さっそく仕事をしてもらう事になった。何せ人手不足だからな」
というワケで早速仕事が入った。人手が足りないからしょうがないか。まぁ、ウチみたいに到着後説明無しで仕事を振られ、さらに日付が変わるまで働いたような奴にはこれぐらいは屁でもないけれども。
倉庫で貨物相手に大戦争をした後、やっと食事にありつけた。
ここの食堂は食券制だ。本当は事前に食券をまとめて渡されるはずだったが、色々手違いで今回は自腹になった。1食500円。出費は500円で済むはずだったのだが…
「クサカベ。約束を果たしてもらいにきたぞ」
と食堂に来たクラウスちゃんとマイヤーさんの分も払う事になった。約束は約束だからな。
ちなみに今日の献立は陸上自衛隊式カレーだ。
目の前には海外産の料理なのに日本の国民食にまで親しまれた「カレーライス」が鎮座している。
暖かなご飯に、ジャガイモとニンジンが少し型崩れをしている所から、たっぷりと煮込まれたと思われるカレールー。そしてこの芳しい香り。そんな極上品が腹ペコの野獣共の前に置かれたらどうなるか？ 答えは「とにかく食う」である。
初めてのカレーライスにクラウスちゃんは最初は恐々口に入れ、辛さに1回びっくりしたが、その後は普通に食べている。いや、下手するとお代わりするんじゃないだろうかと思われる勢いだ。あ、お代わり行った。
執事で漢なマイヤーさんは、一口をじっくり噛み締めながら味わっている。どう見ても分析しながら食べているようにしか見えない。そして私に向かってつぶやいた。
「草壁殿。やはり日本は豊かな国なのですね」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「この『かれー』と言う食物は香辛料が異常に入っています。むしろ香辛料ばかりと言っていいのではないでしょうか。こちら所にも香辛料を使っての料理はありますが…このように大量に使用したものは見受けられません」
「マイヤーさんのいる所では香辛料は高いのですか？」
「ええ。食料費でもかなりの割合になります。それに塩も」
そう言ってマイヤーさんは卓上塩を持ち上げて、少し自分の手のひらに出した。
「塩は高価です。しかもこの様に真っ白なものは高級品です」
さらにコショウも同じように少し手のひらに出した。
「このコショウも同じです。どちらも精製されたようにしか見えません。どちらも「王国」では精製前のものですら高価です。それがこのように普通のものと一緒に置いてあるという事は、これらは日本では取るに足らない調味料扱いされている事を示しています。これだけでも豊かさが伺えます」
マイヤーさんは塩が入った透明な容器を羨ましそうに眺めた。
F世界と日本との落差をまた1つ実感した。
だがそれ以上にマイヤーさんの観察眼に驚いた。ファンタジーな世界と言えども人間は人間であり、侮る事は許されない事を実感した。まぁそれ以前に事前研修で『現地の人間を侮った態度で接する事を禁じる』事をたっぷり叩き込まれていたが。
食事が終わった後、まだ時間があるので飲み物を飲みながら世間話をしようと思い立った。さて、クラウスちゃんたちに普通のお茶を飲んでもらおうと思って自販機（そんなものまである！）の所に行って驚いた。
「コーラがある！」
米軍がいる時点で気がつくべきだった。
日本人は米と塩と味噌と醤油があれば大丈夫だが、アメリカ人はコーラでメリケン分を補充しなければ生きていけない（偏見）のだ！それに関する逸話もあるしな。ようし、ここはコーラを勧めて驚かせてみよう。
コーラの炭酸に驚くという王道イベントを見物した後、クラウスちゃんは少し離れたテーブルで姉御＋WAC（女性自衛隊員）たちと女同士でお喋り中。
で、こっちはこっちでマイヤーさんたちと男同士の内緒話…と言うより単なる世間中。
今日は遅いのでここに泊めてもらう事（基地司令の許可済み）になった事。
これからもちょくちょくこちらに来て勉強させてもらう事。
場合によってはクラウスちゃんをここに預け、自分は王宮との交渉に没頭するかもしれない事。など。
ここで僕は疑問が出た。
「マイヤーさん。王宮の会議などに騎士が出なくていいんですか？」
「お嬢様がまだ幼いことは知られています。なので代理です。それに、私は騎士としてそれなりに知られていますので大丈夫ですよ」
へぇ。でもその説明でさらに疑問点が。
「基本的な事を聞きたいのですが、いいですか？ なぜそれなりに知られたあなたがクラウスちゃんに仕えているのです？」
マイヤーさんは少し陰のある表情を見せて答えた。
「昔、ちょっとした契約がありましてね。それ以来です。それに今ではお嬢様が実の子供のように思えてしまいまして…病で妻と娘を病で亡くした身なので」
しまった、まずい話題だったか。
「…すいません。つらい事を思い出させてしまいまして」
「いえいえ。かまいませんよ」
クラウスちゃんたちが笑っている。人とエルフの違いに加えて、世界違いでもあるが、女性同士で気が合うようだ。思わず顔がほころんでしまう暖かい光景だ。
「マイヤーさん。あんな笑顔を見てしまえば、全力で守りたくなりますね」
「ええ、やはり草壁殿もそう思いますか。ですが家督を継いで以来、お嬢様の笑い顔はあまり見られませんでした。その笑顔を再び見る事ができました。私はあの笑顔で明日を戦えます」
「同じですね」
「ええ」
そう言い、グラスを少し持ち上げる。
「コーラではなく酒が相応しいのですが」
「草壁殿。構いませんよ。それでは」
『明日の笑顔の為に』
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