輸送戦記 第10話 待ち伏せ
昼食後、僕たちは出発した。
僕はまた軽装甲機動車に乗って監視を。
クラウスちゃんはまた僕と一緒の車に乗っている。なんでここまで気に入られたのやら理解に苦しむな。
ともかく車列は何事もなく進んでいく。だが、トラブルはすぐ近くにまで迫っていたのだ。
街道が森に入った。
今までは片側2車線の良い道路だったが、森の中では片側1車線に狭くなった上に道路状況が極めて悪くなった。隊長いわく『施設がかなり補修をした』らしい。
ならば以前はコレよりももっと劣悪だったわけか…物流にとっては致命的だな。周辺環境まで考えると、道が狭くて悪くてカーブが多くて、鬱蒼と茂った木々で日当たりが悪い。雨が降ったら泥濘と化して通れなくなるな。WW2ロシアの泥将軍かよ。畜生。で、そこでヒイコラ言うのは僕たちか。
そんな事を考えながら周囲を視ていると…森の中に人の気配がなんとなくする。地元の猟師さんか何かだろう。そう思って気にしない事にした5分後。前方に障害物が見えた。
道のど真ん中を倒木が塞いでいる。車列はゆっくりとスピードを落とし、止まろうとする。そこで気がついた。人の気配がする。それも大勢。話し声がない。あるのは殺気だけ。
僕は叫びたくなる衝動を押さえ込む事になんとか成功し、口元を手で隠しながらヘッドセットについているマイクに向かって警告を発した。
「ホークアイより総員。警告。警告。待ち伏せ。森に伏兵がいます。数は50人程度と推測」
「ダリア00より全車。警戒態勢。民間人（僕たちの事）は出すな。こちらが気づいている事を気取られないようにしろ。その上で障害物を排除だ」
さすがは隊長、対応が早い。ははぁ、戦闘は避ける気だな。こっちは単なる輸送隊でしかも民間人を抱え込んでいるからな。
「ダリア00より全車。民間人にアーマーベストとショットガンを渡せ。最悪に備えろ。その準備も気取られないようにしろ」
ゆっくりと障害物から少し離れたところで車列が止まった。
「ダリア00より全車。障害物排除を準備。できるだけ騒いでそっちの方に注意を向けさせる。その間に民間人の準備だ」
状況は「ビルマの竪琴（映画版）」かよ。
僕らの役回りは、村にある集会所で休息中の日本軍。
村にある平屋の集会所はこの森と障害物。
村を囲んでいる英軍役は周りにいる敵。
敵はこっちを殺る気満々。
日本軍指揮官は大胆にも騒いでいるフリして準備を整える。
弾薬車を山車のフリして動かすのは…障害物排除準備か。
今ここで先手を打ってもこっちの戦える兵が少ないからどうなるか分からない。姉御とミランちゃんの2人がいるが、数で押し切られたらおしまい。
車列が止まっても襲撃をしてこない。こっちの出方を伺っているのか？ならこっちにも勝ち目がありそうだ。
「おーおーこれまた派手にやりやがって」
陸自の隊員が障害物を調べている。離れた瞬間に矢が飛んでくる可能性があったがそれはなかった。
「木を切り倒して転がしただけか…牽引で少し動かせばOKかな？」
「押したほうが早くないか？」
隊員たちがわざと大き目の声で騒ぎながら作業を進める。傍目にはのんびりしているように見えるが、こっちはドキドキものだ。この瞬間にも敵が殺到してくるかもしれない。その時は真っ先に殺られるのは彼らだ。彼らが注目を
ひきつけている間に準備は進む。
「ダリア00より全車へ。準備状況を知らせ。送レ」
各車より返答が入る。準備完了らしい。姉御たちもOKだ。
倒木にワイヤーを引っ掛け、車で牽引することで排除しようとしている。見ている事でこんなに消耗するとは思わなかった。
鳥が鳴き声を上げて飛び去った。鳥にもこの緊張感が分かったのだろうか？
「クサカベ、なぜそんな恐い顔をしている？」
「クラウスちゃん。理由は後で話しますから今はしゃがんでおとなしくしていてください」
「ん、分かった。クサカベの事だ、何か理由があるのだろう」
「助かります。基地に着いたら何かおごりますから」
そう言うとクラウスちゃんはニコっと笑った。
「騎士に二言はないぞ」
危なかった。もしクラウスちゃんが騒いだらそれをきっかけに戦闘が始まるかもしれなかった。周囲の空気は張り詰めた弦のようになっている。何かの拍子で弾けるぐらいに。
なんとか倒木の一部排除に成功した。後は通るだけ。だが油断はできない。まだ襲われる可能性はある。
今、1番緊張しているのは僕と隊長だろう。
僕は『感覚が鋭すぎて敵の吐息すらわかってしまう』から。
隊長は『敵前で作業させて無事に通るという大胆な手を打って』いるから。
多分、僕と隊長は汗で3㎏は痩せるに違いない。ついでに胃潰瘍も発生しているに違いない。後で医者に診てもらおう。
「ダリア00より全車。出発」
車列が一斉に動き出した。ゆっくりと倒木をかわし、全車が通り抜けた。そしてスピードを上げて森を抜け出した。
「ダリア00より全車。警戒を解除」
森を抜けた辺りで隊長から警戒解除が出された。やっと終わった。
敵は帝國軍の潜入した連中じゃなかったのか？もしそうなら、敵は山賊。
キャラバンを狙って障害物を仕掛けたが、引っかかったのは僕たち。自衛隊と知っていれば手がだしにくい。彼らからすると驚異的な魔法に見える戦力が目くらましになって襲う気をなくしたのだろう。
もしこっちが自衛隊であると知らない場合は、訳の分からない化け物（に見える）を襲うよりはやり過ごす方を普通は選ぶな。
帝國軍の潜入部隊なら、偵察目的ならやりすごして情報収集が基本だから攻撃は無し。攻撃目的なら民間を襲った方が効率が良い。
どちらにしても助かった。
夕方。僕たちは目的地である「王国」首都郊外にある基地に到着した。
ところで…日章旗が掲げられているのは当たり前だけど、星条旗が隣に掲げられているのは何で？
