空の資料館-輸送戦記 第8話 騎士との遭遇
あの襲撃事件から1週間後。
どうやら僕たちは敵の注目を集めている事が分かったらしい。
と言うのも、今回の敵勢力である帝國から見ると僕たちは…
「未知の魔法技術を持つ恐るべき敵勢力が派遣した、新しい援軍」
という事になる。
その「敵勢力」が新しい「援軍」を王国に派遣した。という事は早晩帝國はこの「援軍」と闘わなくてはならない。ならば帝國としては「援軍」について調査し、できる事ならばその戦力を少しでも削いでおかなければならない。
とても常識的な考えだ。いくら技術レベルが中世といえども油断はできない。
問題としては、その「援軍」は民間人ばかりである事に気がついていない所だろうか？
もっとも、自衛隊王国派遣部隊第1陣（話によるとナラシノ・バスターズこと第1空挺団だったらしい）が、侵攻してきた帝國軍第1波を文字通り『消滅』させる事に成功してしまった事から、全ての集団が「ナラシノ・バスターズ級」であると先入観を抱いている可能性が高いのであるばしょうがない。
実際のところ、現代の軍隊基準で考えれば民間人。かなり基準を緩めても民兵レベル？な僕たちだが、F世界でもわかりやすい「魔法使い」が何名か出たので、ある意味間違ってはないかもしれない所が恐ろしい。
そんな「注目の部隊」となった僕たちだが、早めに各基地に配属して人手不足解消＆監視の分散化を図る事になった。もっとも、本格的魔法使いに目覚めた連中は日本本土に戻るらしい。羨ましいが、ある意味貴重なサンプルだから戻ってどういう扱いをされるのか。まぁ死と隣り合わせの生活を送る事を義務付けられてしまった僕たちよりはマシだろう。
そんな事を考えながら僕たちは今、街道を王国首都に向かって進んでいる。
進んでいると言っても徒歩行軍ではなく数台のトラックに分乗し、もう2時間は揺られている。
街道は昔の統一帝国（ローマ帝国が近いのか？）が整備した石畳舗装の立派な道路の成れの果てだ。ちゃんと整備され、日本と比べても遜色無い区画があれば、舗装が消え、土が剥き出しになってひどく揺れる所もある。もっとも、道のど真ん中に大穴があいていたりするもっとひどい所もあったが、そんな所は陸自の施設科が直したり、注意標識を立てたりしているので今の所は大丈夫だったりする。
僕はトラックの荷台で揺られながら仲間と談笑しながらのんびりと過ごし…たいのだけれどもそうはいかない状態だったりする。
僕が今いるのは、車列の2番目を走る軽装甲機動車だ。その天井に設置された防盾付銃座から上半身を出して周りを観察している。要するに見張り番である。進行方向に怪しいものがないかをいちはやく発見するのが仕事だ。
本当は1番前が良いらしいが、民間人を先頭にするのはナンなので結局こうなった。
ふつーは民間人にやらせる仕事じゃないんだが、魔法で感覚系が強化されてしまい、自衛隊員よりも監視において役に立つことをこの間の襲撃事件で証明してしまった。よって僕に白羽の矢が立ってしまった。さらに困った事に『観察』と称して姉御やミランちゃんも一緒について来ている。もっともこれは他の人たちから歓迎されている。僕にとっては実験動物な扱いだからあんまり歓迎したくはないんだけど。
ああ、さすがに姉御たちは後ろのトラックに乗っている。そしてぐっすり寝ているらしい。いい度胸だ。
さて、この道はさっき説明した通りの街道だ。その中でも主要街道なので幅がかなりあって、車線の道路ぐらいの幅がある。それぐらいの幅があるこの道を通っているのは僕たちだけではなく、普通の旅人や現地の人たちの馬車も一緒に通っている。よって「時速80kmで爆走！」などはできず、徐行したりとけっこうのんびりとしたスピードで走っている。
僕たちは『のんびり』と感じているが、F世界ではそれこそ早馬や特殊生物でも使わないと出ないスピードなので、現地の人たちはかなり驚いている。さすがに半年もここを通っているので地元の人は慣れっこになっているが、他所からの人はかなり驚いているようだ。普通は驚くだけだが、中にはこっちを化け物と勘違いした騎士や旅人や聖職者とトラブルが発生し、しばらく停車する事もあったりする。
そんな事を考えていると早速トラブルが向こうからやってきた。
ナイスミドルな従者を1人連れた騎士？がこっちを指差して何か叫んでる。見たところ少女か？けっこうかわいいなぁ。ん？「この化け物め」「行きがけの駄賃に退治してやる」だそうだ。
「ホークアイ（僕のコールサイン）よりダリア00（輸送隊指揮官）へ。前方に興奮状態の騎士を発見。送レ」
「ダリア00よりホークアイ。またトラブルか？送レ」
「ホークアイよりダリア00へ。トラブルです。こっちを化け物と勘違いしています。送レ」
「ダリア00よりホークアイ。了解した。これより対応する。終ワリ」
また停車らしい。
さっきまで騒いでいた少女騎士＆従者に輸送隊指揮官が応対している。かわいいんだけど完全に頭に血が昇ってるからこっちの言う事を聞いてないな。あ、姉御とミランちゃんも出てきて説明を始めた。
5分後
なんとか興奮は収まったみたいだけど、まだこっちを疑っているな。今度は帝國の手先と疑っているらしい。
まー向こうから見たら訳の分からない鉄の化け物が爆走して、その中から人間やエルフが出て来たのだから怪しいと言えば怪しいな。それにしてもこの王国は意思疎通ができてんのかね。一般人はともかく支配階級の騎士に話が通ってないのはまずいと思うぞ。
お、輸送隊指揮官が何か書類を見せているが…ありゃ、急に少女騎士の口調が丁重なものになったぞ。何かの証明書でも見せたのか？ まートラブルが片付いてくれるなら大歓迎だけど。
15分後。
無事に出発。だけどなんであの少女騎士が同じ車に乗っているんだ？
普通は隊長車に乗るだろ！;
どうやら少女騎士と従者さんは輸送隊と同じく首都を目指していたそうだ。ならば輸送隊に同乗する事になったそうだ。
少女騎士が乗っていた痩せ馬は、通りかかった農民に金を渡して預かってもらい、首都まで連れてきたらさらに金を渡す事に。
ナイスミドルな従者は隊長車に。少女騎士は僕の車両に同乗。見たところ、実務者レベルでの交渉等は従者の役目らしいが、それでも主人と離れるのはどうかな～と思う。だがよく考えると身元はしっかりしているし、規律正しいから問題ないと判断したのか？ まぁよくわからないけどね。
さてその少女騎士、名前はクラウス・F・シュバインオーグ…
親戚かご先祖様に有名な魔法使いがいそうな名前だと言ったら、本当に有名な魔法使いがいたらしい。もっとも、平行世界をどうこうとか言うレベルではないようだ。
さてその騎士クラウスちゃん。化物とこっちを罵っていた割には軽装甲機動車に大喜びしている。やっぱりガキだ。話を聞いたら14歳！ 確かにガキだ。そのガキが騎士なんてある意味切った張ったアリアリなヤクザな家業をやっている理由だが両親が死亡したのでその年で騎士を継いだからそうだ。ずっと後継者＝男として育てられたそうだったから、この年齢で覚悟完了済みと。ひとりっこはつらいな。
13歳少女メイドみたいに妙なスイッチがはいってしまう人がいるかもしれないけど、僕はガキは守備範囲外だからまぁ平気だ。
一緒にいたナイスミドルな従者の名前はマイヤーさんと言い、先代から仕える執事だそうで。でも執事と言うより、今でも陸戦に対応できそうな雰囲気がするのは気のせいだろうか？
さて、そんなクラウスちゃん主従は、今回の帝國との戦争に馳せ参じる為に出てきたそうだ。だがただ単に参戦する事が目的ではない。参戦と引き換えに領地を認めてもらう事がその目的だそうだ。
領地は小さいから当然収入も少ない。貧乏だから政治的影響力も無い。で、両親の死去で領地召し上げや横取りを回避する為に参陣。
出陣中は領土関連のごたごたは凍結される慣習になっているので安心だが、もしお墨付きがもらえなかったらお家断絶になり、彼女いわく「7代前からの名家」が消えてしまう。それに彼女を敬愛してくれている領民たちがもっとひどい領主のモノになるのが我慢ならないそうだ。
聞いた感じだとなんだかとっても鎌倉時代の鎌倉幕府と御家人みたいな感じが。まぁデカい所のお墨付きのあるなしは大きいわな。
いくつか話しているうちにわかったが、この娘単なるDQN娘かと思ったらけっこう真面目でいい娘だ。これで堅苦しい物腰じゃなければもっともてると思う。そう言ったら思いっきりうろたえてる。うーんかわいい。
そんな事をしているうちに困ったことになった。
困ったと言っても軍事的に困ったわけではない。
何かって？
クラウスちゃんになつかれた。
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